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リードの短い犬

  • 執筆者の写真: 良平 岩崎
    良平 岩崎
  • 2025年12月26日
  • 読了時間: 3分

リードの短い犬が銀杏並木を歩いている。


リードの短い犬のリードが短いので、地面の銀杏は踏まれまくっている。肉球に挟まった銀杏の臭いがだいきらいでたまらないけれど、リードの短い犬は、散歩はしたいのである。


向かいから、リードの長い犬が歩いてくる。リードの長い犬のリードが長いので、地面の銀杏は踏まれたり踏まれなかったりしている。リードの短い犬は、その長いリードを見て、長くても結局踏むは踏むんだな、とおもう。


振り返ると、後ろにはリードのない猫が歩いている。リードのない猫は、地面の銀杏を、四本の脚を規則正しくしなやかに動かしながら避けていく。リードの短い犬は、リードのない猫をみて、こいつはリードがあったとしても結局は踏まなさそうだな、とおもう。


向かいから今度は、また別のリードの短い犬が歩いてくる。お前もリードが短いんだな、と思っていると、向かいの犬のリードは次第に伸びていき、気がつくとリードの長い犬になっている。それを見たリードの短い犬は、最近は長さが自由自在になるリードもあるんだな、とおもう。リードの長い犬の足下の銀杏は踏まれまくっている。


リードの短い犬はふとおもう。もしかして自分のリードも伸びるのかもしれない。リードの短い犬はおそるおそる、短い足を一歩一歩前に進めてみる、すると、リードの短い犬のリードはぐんぐん伸びていく。リードの短い犬はどんどん進む。いつしか銀杏並木は終わり、線路を渡り、住宅地を抜け、ラーメン屋の脇をくぐり、国道を越えた先の砂浜に辿り着く。肉球に挟まった銀杏の水分が砂にほどけていく。砂浜の熱が銀杏の臭いを立ち上らせる。


砂浜にはでっかい鯨が打ち上げられている。リードの長くなった犬はでっかい鯨を見て、でっかいなあ、とおもう。犬からしたらそのでっかい鯨の姿はあまりにもでっかくて、まだ生きているのか、もう死んでしまっているのかもよくわからない。あとは皮膚が樹木のように硬そうに見える。触ったら意外と柔らかいかもしれない。でも触るのは怖いのでこの皮膚は硬い。硬くてでっかい鯨。


でっかい鯨のでっかい身体を迂回すると、海が見え、その先に水平線が見える。リードの長くなった犬は、海の向こうに何があるのかを知らない。海と空の間の水平線をじっと見ていると、そこが何色なのかがわからなくなってしまったので、リードの長くなった犬は来た道を駆けながら引き返す。国道を渡り、ラーメン屋の脇に入り、住宅地を抜け、線路を越え、空を見上げると、銀杏の葉はもう木にはおらず、あんなに地面を埋め尽くしていた銀杏の実がどこにもなくなっている。もちろんリードは短くなっている。


冬が過ぎて春がやってくる。リードの短い犬のリードは、あの時以来、ずっと短いままである。



 
 
 

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